冒険のエスプリ_18 / サバの背に恋をして

その昔、親父と兄と僕の3人で釣りに行った事をよく思い出す。
あの日見たサバの背中の模様の美しさはおそらく僕は一生涯忘れはしないだろう。
サバはモスグリーン、グリーン、ダークブルーと青みがかった体色をしていて、その光沢は重層的で瑞々しく、表面の反射をすり抜けた光はそのまま奥へ奥へと溶け込んで行く感じだった。
更に迷路の様な独特の模様も重なって宝石の様な輝きで溢れていた。
また小刻みにブルブル震える釣り上げたばかりのサバを僕は絶対に逃すものかとしっかりと両手で持ち、サバの背を僕は舐める様にじっくりと堪能した気がする。
あれから何年経ったのだろう、僕も父親となり子供とスーパーへ買い物に行ったりとパパ業務をする機会も増えて来たある日の事だった。
魚好きの子供達なので鮮魚コーナーを目にすると毎度大興奮な訳で、子供達はアジだ、タイだ、スズキだ!など興奮しながら僕の手を引っ張って来る。
人混みを掻き分け鮮魚コーナーの最前列まで来ると、氷の上に陳列された鮮魚達が目に飛び込んで来た。
ふと、サバが目に止まった。何気無く僕はサバの向きを指先でゴロリと向きを変えて久々にサバの背を見たのだ。同時に僕はあの日見た美しいサバの背を思い出していたのだが、あの日僕が目にした溢れ出すほど美しい輝きの感動は失われていたのだ。
生きたサバの背を見る事が出来るのはある種、釣り人の特権かもしれない。
再び僕は竿を振り出したのだが、それはきっとあの日見た美しいサバの背の輝きを見たいからかもしれない。
こんなストーリーを僕は子供達、そして子供達はまた次の世代へと継承して行けたら素敵なんだろうなと、ふと感じた師走の朝だった。